ネコのてんかん発作の原因としてもっとも多いのは、髄膜脳炎である。
髄膜(脳脊髄膜)とは、頭蓋骨の内で脳脊髄をつつむ保護膜で、三層からなり、表層から硬膜・くも膜・軟膜となっている。髄膜脳炎とは、その髄膜(おもに最下層の、つまり脳神経細胞に密着する軟膜)に炎症がおこり、周辺の脳神経細胞に悪影響をおよぼして、痙攣発作などさまざまな神経障害をもたらす病気である。
ネコの髄膜脳炎には原因不明のものも多いが、ウイルス感染症によるものも少なくない。そのなかで有名なのは、ネコ伝染性腹膜炎(FIP)である。これはコロナウイルスがネコの血管内に炎症をおこすもので、お腹や胸の血管内で炎症をおこす(ウエットタイプという)と、患部に腹水や胸水がたまる。胸水なら呼吸困難、腹水なら食欲不振と栄養失調で衰弱死する。脳内の血管に炎症をおこす(ドライタイプという)と、髄膜脳炎などから重い神経障害をひきおこして、死に至る。ワクチンもなく、病気を治す薬剤もない。
そのほか、ネコ白血病ウイルス(FeLV)やネコエイズウイルス(FIV)などでも、脳炎をおこす場合がある。
さらに注目されるものが「ボルナウイルス」である。これは、最初、ドイツで競走馬が重い神経症状(ボルナ病)で死亡したときに発見されたウイルスで、現在、てんかん発作をはじめ、何らかの神経症状に苦しむネコの約半数が感染しているというデータもある。このボルナウイルスが実際、どのように脳疾患をひきおこすのか、定かではないが、原因不明の髄膜脳炎のうちには、このウイルスが関係するものがひそんでいる可能性は高い。
*この記事は、2000年11月15日発行のものです。
監修 渡辺動物病院副院長 渡辺直之氏「てんかん発作をおこす」より転載。